タイトル知床半島周辺の温量指数

植物の生育に重要な影響を与える気象データ(温量指数、寒さの指数、5-9月日照時間、最深積雪深)を、知床半島をから阿寒へと連なる脊梁山脈を対象軸として、オホーツク海側と太平洋側で、それぞれ環境的に相対するアメダスポイントを選んで比較しました。

 夏、良く晴れて暑いウトロから知床峠や羅臼岳に登ると、反対の羅臼側(根室海峡)は、霧に厚く覆われて、そのまま羅臼の街に下りていくと「うわ寒い!」と、言う経験をされた方も多いのではないでしょうか? 逆もそうです。朝、霧雨の羅臼。「今日は天気が悪いなぁ」と、浮かぬ気持ちで、峠や山に登ってみると、何とも良い天気。しかも暑い!。
 もう少し目を広げて、道東全体で見ても、例えば、良く晴れて暑い美幌の街から、美幌峠に登るとそこは一面の雲海。そのまま弟子屈、さらに釧路へと向かうにつれて霧が濃くなり、肌寒い思いをした。とか、中標津の開洋台では暑かったのに、海辺の野付半島へ近づくに連れて急に寒くなった。とか・・・。

 経験的に夏のウトロは良く晴れて暑く、霧が立ちこめ寒い羅臼とは対照的な印象を、多くのヒトが持っています。実際、花の開花も1週間くらい違い、芽吹きや葉の広がり具合など植物の生長も、目に見えて違いがわかるほどです。
 わずか数キロであっても、内陸から海辺へ向かうと急に寒く感じ、オホーツク海側から太平洋側へ移動すると、その涼しさ故でもありますが、畑作から酪農へと産業が大きく変わる事もあって、同じ道東でも目に飛び込んで来る景観がずいぶんと違います。
 これほどの違った印象を見せるウトロと羅臼。オホーツクと太平洋。内陸地区と海岸。これらはより客観的なデータとして比べてみた場合、どのくらいの違いがあるのでしょうか?
 植物の生長に大きく影響する温量指数や寒さの指数。日照時間や積雪深について、それぞれの地区を代表しそうなアメダスポイントを選び、そのデータから値を求めて、地図上にプロットしてみました。

 そうすると、肌や目で感じていた事が、データの裏付けを持って、よりはっきりと見えてきました。
 それぞれ相対するアメダスポイントで、寒さの指数や積雪深に大きな差はありませんが、温量指数と5-9月の日照時間に大きな差があることが一目瞭然。「体感や印象、景観」の違いは、データの差となってはっきり見えてきました。

←ウトロ側 2004/06/11 羅臼岳山頂から岬方向を見た これから夏の間見られる山頂からの典型的な光景 羅臼側→

←ウトロ側 2003/06/05 羅臼岳山頂から岬方向を見た  霧のない根室海峡は、国後島がハッキリ見える 羅臼側→


知床半島:ウトロと羅臼 霧とフェーン現象
 直線距離で16km程しか離れていないウトロと羅臼のアメダスでは、温量指数と5-9月の日照時間に大きな差があります。
羅臼の温量指数は根室をも下回る「42.6」(※4)、対するウトロは「53.2」。日照時間は、5ヶ月間で153時間の差があります。同じ知床で、これほどの差はどこから来るのでしょうか?
 ひとつは、やはり霧です。太平洋から流れ込む霧は、羅臼のある根室海峡を覆い尽くしますが、山を越えてウトロ側へは、全くと言っていいほど流れていきません。こんな時、羅臼岳から稜線上を眺めると、羅臼側は霧、ウトロ側は晴という夏の典型的な光景が広がっています。
 霧が根室海峡に入る時は、南寄りの風に乗ってやって来るため、ウトロではそれが山越えの乾いた暑い風となり、霧どころか晴れて暑い日になります。いわゆるフェーン現象です。
 方や霧で陽の光は遮られ、さらに海を渡る冷たい風でますます気温は下がり、もう一方ではフェーン現象によってさらに気温が上がる。南風というひとつの気象現象が、山ひとつ隔てた半島の向こうとこちらに大きな差を生み、夏の気温(温量指数)や日照に大きな影響を与えています。

道東及び知床半島周辺の温量指数
立地区分 知床半島 海岸 内陸 脊梁山脈 高地 根室半島
相対地域(※5) オホーツク 太平洋 オホーツク 太平洋 オホーツク 太平洋 脊梁山脈 脊梁山脈 太平洋
アメダス観測地点(※3) ウトロ 羅臼 網走 釧路 北見 中標津 川湯 阿寒湖畔 根室
アメダス標高(m) 144 82 38 5 82 82 133 430 25
温量指数(℃) 53.2 42.6 56.5 49.4 60.5 48.7 48.3 46.1 46.2
寒さの指数(℃) 42.3 42.2 39.5 36.3 48.7 46.3 56.9 60.9 33.1
5-9月日照時間(時間) 727.3 574.5 816.5 608.5 681.7 526.6 485.0 558.8 640.5
最深積雪(cm) 109.1 104.3 41.9 36.0 87.6 82.4 104.4 135.0 28.1

比較対象として選んだ各アメダスポイントのデータから以下の値を求めた。
各値とも1996-2002までの7年間の平均値(一部欠損データがあり、6年間で平均をとった値もある)。
温量指数(※1) 植物が生活するために必要な1年間の温度(積算値)
寒さの指数(※2) 植物に影響を与える寒さの指数
5-9月日照時間 植物の生育に必要な期間の日照時間
最深積雪 植物の生育に影響を与える積雪深 年間の最深積雪の平均値
※1.温量指数:植物の生長にとって最低限度の気温の平均を5℃とし、年平均気温が5℃以上の月の平均気温から5℃をマイナスし、1年間積算した値(吉良,1949)
※2.寒さの指数:年平均気温が5℃以下の数値を合計した値(吉良,1949)
※3.アメダス観測地点は、知床半島から連なる脊梁山脈を挟んで、オホーツク海側と太平洋側それぞれの海岸と内陸環境を代表していると思われるポイントを選んだ。また、桜前線の観測地点としては、最後の開花となることが多い根室と、道東の山岳環境の代表として阿寒湖畔のアメダスポイントも参考として掲載した。
※4.根室の温量指数や日照時間が、太平洋側の他地域に比べて高いのでは?:これは、1999年夏に北海道東方に高気圧が居座った際の日照時間(780時間)が大きく影響していて、この「ブレ」によって根室のデータがやや高めになっています。1999年のデータを除いて平均をとると、根室の温量指数は、44.5℃。日照時間は、約617時間。
※5.オホーツク海側:狭い意味でのオホーツク海。この場合、知床半島から連なる千島火山帯を脊梁山脈として、オホーツク海側(網走支庁側)と太平洋側(釧路・根室支庁)の対比として見たため羅臼も太平洋側とした。本来は千島列島北側に位置する根室海峡もオホーツク海に含まれる。
※参考:温量指数と生態気候区分(引用:吉良(1949)の区分による)
温量指数 区分
0以下 極帯
0-15 寒帯
15-45 亜寒帯
45-85 冷温帯
85-180 温暖帯
180-240 亜熱帯
240以上 熱帯
※参考:各地の温量指数
  札幌 70
  青森 85
  長野 95
※気象庁ホームページ http://www.data.kishou.go.jp/etrn/index.html 網走、北見、ウトロ、羅臼、中標津、釧路、川湯、阿寒湖畔、根室の各観測地点の「1年間の毎月の値」1996-2002年から平均気温(月)、日照時間、最深積雪の各データを使用。
※温量指数(吉良)の定義と、温量指数と生態気候区分については、環境省 生物多様性センター http://www.biodic.go.jp/reports/4-01/y157.html からそのまま引用した。
※地図の作成にはKashmir 3Dを使用。この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平13総使、第222号)